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あの日、あのとき、あの場所で

2012/01/27 23:43

 

「あの日、あの時、あの場所に座らなければ」

 

今更、そう後悔しても、何が変わるわけでもない。

 

だが、そう悔いざるを得ない出来事に私は遭遇した。

 

             ◇

 

私は、その日、そのとき、銭湯にいた。

 

いつもは人がまばらなその銭湯は、その日に限って、なぜだか混雑していた。

 

ホームポジションといえる私の定位置はすでに占拠されており、仕方なく、洗い場の中ほどに座らざるを得なかった。

 

隣には40歳代とおぼしき中年男性が、イスに腰掛け、身体を洗っていた。

 

ごくありふれた風景。

 

いつもと変わらない時間。

 

私は、そのときまで、そう思っていた。

 

            ◇

 

横の中年男性は身体を洗い終え、やおら湯船に向かっていった。

 

それを横目にしながら、私は身体を洗い始めた。

 

ゆっくりと、いつものように左腕から洗い始める。

 

そして、次は右腕だ。

 

私はまず右の手首を洗い始めた。

 

次は腕とばかりに、視線を、右に向けた、まさにその瞬間だった。

 

私は、ついに、それを見つけてしまったのだ。

 

いつもの光景は、その瞬間から、がらりと別のものに変わっていった。

   

            ◇

 

それは、突如、私の視界を捉えた。

 

つい数十秒前まで、中年男性を乗せていた「イス」だ。

 

そこに何かが付いていたのだ。

 

私は、そのイスの付着物、ただその一点だけを凝視していた。

 

シミかと思ったが、どうやら違う。

 

ねっとりした固形状の物体のようだ。

 

「味噌か?」

 

馬鹿な発想が瞬間、頭をよぎったが、その考えは、一瞬にして、どこかへ吹き飛んだ。

 

この物体が何なのか。答えは明らかだった。

 

私はえづきそうになるのをこらえ、別の空いている席に移った。

 

だが、すでにその鮮烈な映像は私の脳裏深くに強く焼き付けられ、忘れ得ぬ記憶となった。

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